日常生活をする上で、ピンセットを頻繁に使う人は居ないと思いますが、私は数年前からミニチュアの小物を作るようになり、それからというものピンセットは欠かせないアイテムの一つになりました。
ピンセットと一言で言っても、逆パターンで開く物（つまむと先が開く）や、先端が丸い物、角度がついている物、真っ直ぐな物等色々あります。
ピンセットは相性もあるし、やはり精密な道具なので先端が0.1ミリ重なっていないだけでも作業に支障が出ます。
そこでこの数年間、amazonや他ショップからありとあらゆるピンセットを買いました。
口コミで評価が高ければ、一度も買った事の無い個人ショップの物を取り寄せたり、最初の頃は5本ぐらいセットになっているお洒落なケースに入っている物も買いました。
さほど精密ではない作業の時は、どのピンセットも活躍してくれるので、買った物の全てはなにかしらの用事で使用していてハズレというハズレはありませんでした。
だけど、全部【これだ！】というレベルじゃないんですよね；
【いいね、使いやすい！】とは思うけれど【これだ！】ではない。
どんなものも妥協は必要ですが、妥協している間ってそれを使う度に「もっと自分に合う物があればなぁ」という思いがつきまといます。
それでも、数年の間はそのまま色々なピンセットを駆使して小物を作っていました。
突然話は変わりますが、私は案外想い出の品への執着がありません。
執着がないというか、捨てる基準が広いというか。昔の想い出の写真も一枚残して普通に捨てちゃう時もありますし、初めて作った同人誌の在庫も世間で言われる「処分するときの虚しさや悲しさ」など感じず箱事処分してスッキリしました。
一度どうでもよくなった事や物は、ずっとどうでもいい事が多いです。
特に社会人になってからのものはそんなに思い入れもないので；
しかし、そんな私でも学生時代に授業で使った道具は何故か捨てられませんでした。
今はもっと便利になったバージョンの道具があるので、使いはしませんが……。直角を出す定規やフィルム映写機、使い切れなかった何百枚ものマウント、その時一度しか使用しなかった膠等。
あと講義で使った教科書やノートとかね。
そんな所謂ガラクタとも言える物を、整理する機会がありました。
半分ぐらいは捨てましたが、壊れていない物やまだ使えそうな物はまた元に戻し、捨てる物はゴミとして袋に入れておき、家族に「いるものがあれば使って」と渡しました。
それから半年ほど経ったある日、たまたま自室ではないところでピンセットが必要になり、側にいた家族に「ピンセットある？」と聞いたら、一本のピンセットを渡されました。
ミニチュアの小物を作るには大きすぎるし、何だか使いづらそうだったのでそれを断り、結局作業を中断して自室へ戻りいつも使用しているピンセットを持ってきて作業を続けました。
その夜、家族が「これ使わないけど捨てるのは勿体ないので持ってたいたら？」とその大きなピンセットを渡され、内心「要らないし」と思ったのですが、とりあえずどっかにしまっておけばいいと思って受け取りました。
PCデスクの側にある【あまり使わないペンを入れるペン立て】の方にいれて暫く放置。
その大きなピンセットの存在もすっかり忘れていた頃、また作業をしていて近くにピンセットがなく立ち上がって持ってくるには手も汚れていたので、それを思い出してとりあえず使用してみました。
衝撃（漫画で言うと背景に雷がでて頭に突き刺さってる図）
使った瞬間のあまりの使いやすさに【これだ！】となりました。
ミニチュアを作るのだから道具も小さい方が小回りがきくと決めつけていた事も、古くなった道具はかみ合わせが悪いから使い物にならないという半分経験上に基づく思い込みも、全て飛びました。
作っている小物の20倍ほど大きなピンセット。
だけど、持ち手がしっかり太いので握って作業するときの力の加減の調節がわかりやすく、長い持ち手の分作業する箇所が影にならない位置で掴め、本当に使いやすかったのです。
よくよくルーペで確認してみると、古いけどしっかりしたステンレス製だったので先端はずれずにきちっと閉じていたし、細かい傷はあるもののコンパウンドで磨けば元にも戻りそうです。
それ以来、このピンセットをメインに使うようになりました。
対布でも、接着するときの作業にも全部この一本。
後日、このピンセットは、学生時代に私が愛用していた物で先日ゴミとして捨てようとしていた物だという事を伝えられました。
【ゴミ】から【これだ！】への突然の昇格。
捨てなくて本当に良かったです。
よくぞまた手元に戻ってきてくれた！ごめんね、捨てようとして。これからは大切にするから！
ピカピカになるまで丁寧に磨きながら、心の中で呟く私。
一度別れた恋人と復縁したような気分です。
だけど、あまりに使いやすいのでもう一本買っておこうとネットの海を彷徨う今、全く同じ品が未だに売っていません。同じメーカーの別のピンセットはあったんですけどね；
もう何十年も前の物なので廃盤になってしまったのかもしれない。
いつかもう一度出会えますように……。
それまではこのピンセットを大切に使います。
